バサラオ 生田斗真サンキュー公演に寄せて

劇団☆新感線44周年興行、生田斗真サンキュー公演『バサラオ』が博多の地で開幕した。

 

千穐楽の大阪まで長い公演であるが、この熱気を沸々とした自分の気持ちをどうにも認めたくてややネタバレ含む感想をブログに書くことにした。

核心には触れていないが、まだ未見の方は読まないようご注意ください。

 

バサラオは生田斗真氏にとって劇団☆新感線には5公演目の出演である。

 

今までの作品は顔は良いけどバカ、明るいヤツというのがスタンダードだった新感線での生田斗真氏。

 

しかし今回のバサラオで演じるヒュウガは、このバカがなくてただ顔の良い男。ややコメディ感のあるやり取りも多少はあるのだが、ほぼ抜け感なしでただただ顔の良い悪役を演じている。

この悪役が清々しいほどの徹頭徹尾、正真正銘の悪役だった。

悪役とは聞いていたが、こんなに全編通して気持ちの良いほど徹底して悪役だとは思っていなかった。手段を選ばず、情もない男。

 

映像作品では近年鎌倉殿の13人で完全なる悪役を演じたが、これは生田斗真氏のキャリアとして初めての完全なる悪役だった。

 

舞台も私が把握している中で完全な悪役というのは初めてではないか?と感じる。

 

普通の青年がダークサイドに落ちたり、ナイーブな青年がダークサイドに落ちたり、思い悩んだり、殺してしまったり、などという役はあったが、皆人間だった。人間らしく思い悩んだうえで悪に手を染めていた。

 

しかし今回のバサラオのヒュウガは全く違う。

己のバサラの信念を貫き通す。

思い悩むそぶりさえ、出し抜かれるそぶりさえ、全てが自分の信念の為の罠なのである。

 

さながら桜の木のような太い幹、大木のようなヒュウガの強い信念。それを支えるのは己の美。

美の圧倒的自己肯定感がヒュウガを悪役として輝かせる。

 

VBBで共演し相思相愛になった親友中村倫也氏が相棒のカイリを務めるが、実際に舞台を見てみるとバディ感は薄い。

2人とも自分だけを信じていて利害関係が一致しただけのパートナーといった感じで、初見で見た時はやや肩透かしというか、もっとバディ感が欲しかったなと思ったりしながら物語を追っていた。

 

しかし、である

ラストシーンを見て私のその浅はかなバディ願望はぶち壊される事になる。

 

カイリのヒュウガに対する隠された想いが明かされ、

ヒュウガへの想いを吐露するラストソングが歌われる。

これはバサラオ屈指の名曲で、中村倫也氏の甘くせつない歌声が多くは描かれないカイリの気持ちを雄弁に語る。

この歌を聴いて改めてハッとした。愛だ…愛の物語だ…と

 

ヒュウガも基本は嫉妬を向けた男しか覚えていないはずなのに、カイリのことは覚えている。カイリの複雑な思いに、ヒュウガも気づいていたのだ。

愛と憎しみが2人を近づけた。バディよりもさらに複雑な茨で絡みついた2人の関係。これを生田斗真氏と中村倫也氏にやらせたかったのか。と1人納得した。

 

しかしその私の思いはすぐにぶち壊される事になる。

ヒュウガの手によって。

お前らの思い通りにはいかない。

ヒュウガは最後までヒュウガであり続ける。

そしてヒュウガは観客に我ここにありと体現する。

 

ここでこの物語は幕切れとなる。

 

えっ、何この物語。

何この物語。

 

初見の時にはものすごく混乱した。

 

あまりにも格好良い。

なんて粋な舞台なのだ。

 

最初から最後まで自分の流儀を貫き通す悪役作品だった事に度肝を抜かれた。

 

終わり方まで格好いいとは、どういう事か?

それも一筋縄ではいかない格好よさ。

ただの生半可な美しさではない、儚さではない、強く麗しい美しさ。それがヒュウガだった。

 

あの終わり方を見る度に私は美しさに感嘆するだろう。

 

美しいだけの男という事に説得力を持ってステージを支配できる人は一握りのスターだけである。

生田斗真はバサラオを通してその稀有なポジションを自らの手で証明し、劇団☆新感線は見事に彼を新しいステージへと押し上げた。

 

今年の10月で40歳の節目を迎える生田斗真氏だが、インタビューでも語られる通り、近年の役柄は若い頃から緩やかにだが変化してきた。

 

若い頃は明るく溌剌で元気なおバカが似合うし、生田斗真氏の真骨頂だった。

色んな役に挑戦するものの、前事務所の方針かはわからないが全盛期を迎えてからは主役が多く悪か正義で言えば正義側の役が多く、人柄の良い役が多かった。

 

そんな中で本日、2025年大河「べらぼう」に一橋治済として出演することが発表された。またしても悪役である。それも完全なる悪役。

 

鎌倉殿の13人、バサラオ、べらぼう。生田斗真氏の飽くなき挑戦がまた始まっていくことにワクワクする。

 

バサラオは生田斗真氏が今までやってきたことがスキルとしても役柄としても詰まった、まさに生田斗真サンキュー公演に相応しい作品だ。40歳を迎える生田斗真に贈る集大成であり真骨頂であり新機軸の作品をプレゼントしてくれた中島かずきさんといのうえひでのりさんに感謝を込めて。

 

10月の千穐楽のその日まで、バサラの宴に興じたい。